第2回: なぜ今、中小企業にDXが必要なのか – 「2025年の崖」を乗り越える
- 樋口 理一
- 1月28日
- 読了時間: 7分
「まだ大丈夫」が「もう手遅れ」にならないために

前回の記事で、DXとは特別なことではなく、日々の業務を「少し」良くしていく積み重ねだとお伝えしました。
でも、正直なところ「うちは今のやり方で何とかなっているし、わざわざ変える必要もないかな」と思っていませんか?
確かに、今日明日に会社が困るわけではないかもしれません。でも、3年後、5年後はどうでしょうか。
実は今、日本の中小企業を取り巻く環境は、大きな転換点を迎えています。そして、この変化に対応できない企業は、近い将来、深刻な経営課題に直面する可能性が高いのです。
この記事では、「なぜ今、DXが必要なのか」を、データと事例を交えながらお伝えします。少し厳しいお話もありますが、逆に言えば、今動き出せば十分に間に合う、ということでもあります。
「2025年の崖」とは何か?
まず、「2025年の崖」という言葉を聞いたことはありますか?
これは、経済産業省が2018年に発表したDXレポートで使われた言葉です。簡単に言うと、**「古いITシステムを使い続けると、2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が発生する可能性がある」**という警告です。
「うちは大企業じゃないから関係ない」と思うかもしれませんが、実はそうではありません。
中小企業にとっての「2025年の崖」とは:
20年前から使っている古い業務システムが、サポート終了でメンテナンスできなくなる
Windows 10のサポートが2025年10月に終了し、セキュリティリスクが高まる
ベテラン社員の退職で、属人化した業務が回らなくなる
取引先がデジタル対応を求めてきて、対応できないと取引が減る
つまり、「今のまま何もしない」ことが、最大のリスクなのです。
中小企業を取り巻く3つの危機

では、具体的にどんな危機が迫っているのでしょうか。大きく3つあります。
危機①:深刻化する人手不足
日本の労働人口は減り続けています。特に中小企業は、大企業に比べて人材確保が難しい状況です。
帝国データバンクの調査(2024年)によると、**中小企業の66.5%が「正社員が不足している」**と回答しています。つまり、3社に2社は人が足りていないのです。
人が足りないなら、採用すればいい?残念ながら、それも簡単ではありません。若い世代は、働く環境を重視します。紙だらけの職場、FAXが現役、テレワーク不可...そんな会社は、求人を出しても応募が来ません。
DXで業務を効率化し、少ない人数でも成果を出せる体制を作る。そして、働きやすい環境を整える。これが、人手不足時代を生き抜く鍵です。
危機②:取引先・顧客のデジタル化
「うちの業界は昔ながらのやり方だから大丈夫」と思っていても、取引先や顧客は確実にデジタル化しています。
例えば、こんな変化が起きています:
大手取引先が「EDI(電子データ交換)に対応してほしい」と要求してくる
顧客が「ホームページから見積もり依頼したい」と言ってくる
「請求書は電子で送ってほしい」と言われる
オンライン商談を希望される
こうした要求に応えられないと、新規取引の機会を失ったり、既存取引が減少したりするリスクがあります。
危機③:サイバーセキュリティの脅威
「うちは小さいから狙われない」は大きな誤解です。
警察庁の調査によると、中小企業を標的にしたサイバー攻撃は増加傾向にあります。なぜなら、中小企業はセキュリティ対策が手薄で、狙いやすいからです。
実際、ランサムウェア(身代金要求型ウイルス)の被害を受けた中小企業の中には、システムが復旧できず廃業に追い込まれたケースもあります。
古いOSや古いソフトウェアを使い続けることは、セキュリティ上の大きなリスクなのです。
実例:DXに取り組んだ企業、取り組まなかった企業

ここで、2つの事例をご紹介します。
事例A:DXに取り組んだ印刷会社(社員12名)
都内のある印刷会社は、5年前まで受発注のほとんどをFAXで行っていました。ベテラン社員の「FAXが一番確実」という考えが根強かったからです。
しかし、若手社員が次々と辞めていくことに危機感を覚えた社長は、思い切ってクラウド型の受発注システムを導入しました。
最初は「使い方がわからない」「前の方が楽だった」という声もありましたが、3ヶ月後には:
受注から納品までの時間が平均30%短縮
ミスが大幅に減少
若手社員の定着率が向上
新規顧客から「対応が早い」と評価される
そして何より、「これなら自分たちでもできる」という社員の自信につながりました。
事例B:変化を拒んだ製造業(社員20名)
一方、ある製造業の会社は「今のやり方で問題ない」と、DXに消極的でした。
しかし、5年の間に:
最大の取引先が「電子発注に対応できない会社とは取引できない」と通告
経理担当の60代ベテラン社員が退職し、その人にしかわからない処理が大混乱
若手が「この会社に将来がない」と次々退職
競合他社がWebマーケティングで新規顧客を獲得する中、自社は受注減
結果、売上は5年で30%減少。今になって慌ててDXに取り組んでいますが、後手に回っています。
データが示す現実:DXと業績の関係

中小企業庁の調査(2023年)では、興味深いデータが示されています。
DXに積極的な中小企業:
売上が増加している企業の割合: 52.3%
利益が増加している企業の割合: 48.7%
DXに消極的な中小企業:
売上が増加している企業の割合: 28.1%
利益が増加している企業の割合: 23.4%
つまり、DXに取り組んでいる企業は、取り組んでいない企業に比べて、売上・利益ともに約2倍の確率で成長しているのです。
これは偶然ではありません。DXによって業務効率が上がり、顧客対応が改善され、新しいビジネスチャンスをつかめるようになるからです。
でも、まだ間に合います
ここまで少し厳しい話をしてきましたが、安心してください。今から始めれば、十分に間に合います。
大切なのは、完璧を目指さないこと。
「全社的な大規模システム」を最初から目指す必要はありません。まずは:
紙の書類をスキャンしてクラウドに保存する
勤怠管理をデジタル化する
請求書を電子化する
ビデオ会議システムを導入する
こういった「小さな一歩」から始めればいいのです。
重要なのは、「今年中に1つでもデジタル化する」という目標を立てて、実際に行動に移すことです。
今日からできること:5年後の自社を想像してみる

では、具体的に何から始めればいいのでしょうか。
まず、紙に5つの質問を書いて、答えてみてください:
今の主力社員は、5年後も働いていますか?
今の取引先は、5年後も同じ条件で取引してくれますか?
今使っているシステムやパソコンは、5年後も使えますか?
今の採用方法で、5年後も若手が採れますか?
今の業務のやり方で、5年後も競合に勝てますか?
もし1つでも「自信がない」と感じたら、それがDXが必要な理由です。
そして、その不安を解消するための第一歩を、今週中に1つだけ決めてください。
「クラウドストレージを調べる」「IT支援会社に相談する」「社員にどんな困りごとがあるか聞いてみる」
何でもいいんです。小さな一歩でいいんです。大切なのは、「今」動き出すことです。
まとめ:「2025年の崖」は、チャンスでもある
人手不足、取引先のデジタル化、セキュリティリスクなど、中小企業を取り巻く環境は厳しくなっている
「2025年の崖」は、DXに取り組まない企業にとっての危機
でも、DXに取り組めば、競合との差別化になり、成長のチャンスになる
完璧を目指さず、小さな一歩から始めることが大切
「今年中に1つデジタル化する」という目標を立てて、今週から動き出そう
次回は、「紙とハンコをなくす」という、最も身近で効果的なDXの第一歩について、具体的にお話しします。
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